内製化とAI駆動開発 ~競争力を高める組織への変革のために~
2026年1月16日、株式会社SHIFTと株式会社ライズ・コンサルティング・グループの共催による、AI駆動開発をテーマとしたセミナーを開催した。当社のパートでは、アソシエイトパートナーの大鐘が登壇し、AI駆動開発の全体像から実現に向けた戦略的アプローチまで、実践的な内容を解説した。
本レポートでは、セミナー内で言及したAI駆動開発がもたらす変革と、その実現に向けた具体的なステップについて紹介する。
目次
はじめに
IT・DX推進における課題は、もはや一時的な問題ではなく、日本企業が直面する構造的な課題となっている。人材不足、ベンダー依存、守りのIT投資への固定化という三重苦の中で、多くの企業が打開策を模索している。
こうした状況において、AI駆動開発が、有力な解決策として注目を集めている。本セミナーでは、AI駆動開発の進化と実践的なアプローチについて、包括的な視点から解説を行った。

何故多くの企業が内製化へ舵を切るのか:IT部門が抱える課題
日本企業のIT部門が直面している慢性的な課題は、大きく3つに整理できる。
第一に、技術・知見の空洞化だ。長期的な外部委託により、自社の人間ではなく特定のベンダー担当者に聞かなければシステム仕様がわからないという状態が生まれている。これは、技術的知見が社内に蓄積されていないことを示している。さらに、重ねた改修により、仕様書が残っていないことや内容が実態と乖離しているケースも多い。これにより仕様のブラックボックス化の進行や、技術判断力の喪失という深刻な問題を引き起こしている。
第二に、維持管理費の高騰が挙げられる。レガシーシステムでは、つぎはぎの改修が重なることで、コードが複雑化(スパゲッティコード化)し、保守・改修コストが増大する。その結果、いわゆる守りのIT投資にコストが圧迫され、付加価値の高い業務や新規ビジネスのための「攻めのIT投資」に十分なリソースを割けないという悪循環に陥っている。
第三に、アジリティ不足である。守りのIT投資への固定化は、企業の適応力を低下させる。市場投入のスピード、サービスの改善スピードが落ちることで、市場適応の遅延や機会損失につながる。IT部門の人材が運用保守に追われ、ビジネスに直接寄与する付加価値の高い業務に集中できない状況も、アジリティ不足を加速させている。
これら3つの課題に対する解決策として、システム開発の内製化に着手する企業が増えている。

人が書くからAIと創るへ:開発プロセスを変革するAI駆動開発の概要
多くの企業が内製化に舵を切る中で、避けては通れない大きな壁がある。それが人材不足だ。IT・DX人材の確保は構造的かつ長期的な経営課題であり、この壁を乗り越える対応策としてAI駆動開発への期待が高まっている。
AI駆動開発最大のメリットは、開発スピード・生産性の向上である。開発スピードが向上することで、開発コスト削減、市場や顧客ニーズへの適応性向上といったメリットも期待できる。また、AIが定型的な作業を担うことで、人間はより創造的で戦略的な高付加価値な業務に集中できるようになる。
実際、AI駆動開発の導入は着実に進んでいる。ガートナー社による日本のソフトウェア開発企業を対象とした調査(2025年7月)では、約80%の企業が何らかの形でAI開発ツールを導入または検討している。また、開発者の約90%もAI活用に前向きな姿勢を示している。AI駆動開発は、もはや先進的な一部の企業だけの取り組みではなく、業界全体で広がりを見せており、AIと人がシステムを共創する時代が到来している。

このように期待値が高まるAI駆動開発であるが、当然のことながらAIも万能ではない。そのため、AI駆動開発を成功させるには、生成AIの特性を正しく理解することが不可欠となる。
システム開発において、生成AIが真価を発揮する領域は大きく3つある。それは、大量の開発ドキュメントやソースコードの生成、膨大なマニュアルや仕様書から必要な情報の抽出、そして軽微なバグや不具合の自動的な検知・修正・デプロイである。
一方で、生成AIには制約も存在する。AIはロジックを理解しているわけではなく、確率的に次の言葉を生成するため正しさを保証できない。また、企業特有の文化や暗黙のルールや専門用語を理解できないという限界もある。さらに、システムの種別によって活躍の機会が限定される。例えば、厳格さが求められる基幹系システムではAIが活用の制約が大きくなるが、比較的自由度の高いWebアプリケーションでは高精度な支援が期待できるといったように、システムの特性によってAIが適用可能な範囲は異なり、一様に同じことができるわけではない。
このようなAIの制約を正しく理解せずにAI駆動開発を導入しても、効果が得られないばかりか、新たな技術負債を生むリスクがある。そのため、以下のような陥りがちな誤解を正しく認識することが重要だ。
よくある誤解の一点目は、「AIによりエンジニアが不要になる」というものだ。AIが自動でシステム開発をするため、エンジニアが不要になる、役割が簡素化されると考える企業も多いのではないか。しかし実際には、エンジニアの役割はより高度な領域へシフトする。具体的には、AIに対して的確な指示を出す「設計力」とAIのアウトプットを正しく評価・レビューする「目利き力」が求められる。また、ビジネス要件の理解と翻訳など、人間にしかできない領域もまだ多い。
よくある誤解の二点目は、「AIは最適化されたコードを生成する」というものだ。実際には、動作はするものの、可読性や保守性に劣る継ぎ接ぎだらけのいわゆる「AIスパゲッティコード」が生成されるリスクがある。そのため、人間がロジックを検証し、運用保守を見据えた品質管理が重要となってくる。 三点目の誤解は、「AI導入により、開発工程の全てが一律に効率化される」というものである。しかし、実際はそう単純ではない。システム開発の工程には、AIが劇的な効果を発揮する領域と、人間が手を動かすべき領域の濃淡が明確に存在している。ここを見誤ると、投資対効果が大きく毀損してしまう。

AIと人はどう分業するか:AI目線で作られた次世代の開発パイプライン
AI駆動開発では、これまで述べてきたようなAIの制約を踏まえ、各工程で「人間が担うべき領域」と「AIが真価を発揮する領域」を見極めることが重要だ。
企画・要件定義工程では、人間が担わなければならない領域がまだ多い。ビジネスニーズや課題の深堀、ステークホルダーとの合意形成、戦略的な意思決定など、高度な判断と対人コミュニケーションを要し、まだ人間だけが為せる業であり、それと同時に要件定義の肝となってくる。一方、業務フローや要件定義書といったドキュメントの作成、過去の類似プロジェクトからの情報抽出といった領域では、AIの力を借りて効率化を図ることが可能である。
設計工程からは、要件をインプットとした実務的な作業が増えるため、AIの活用範囲が広がる。概念的なアーキテクチャ設計や画面デザインに関する直観的な判断など、創造性と経験が求められる業務では、人間が必要になってくるが、データモデル(ER図)、APIスペック定義書といった成果物はAIが自律的に生成可能である。特に、開発・実装~運用・保守フェーズは、代替の可能性が大きく、AIが本領を発揮する領域となってくる。コード生成やテストケース生成、ログの解析等、実務はAIが自律的に推進可能である。
人間の役割はAIのアウトプットに対する監視・確認・証明へとシフトしていく。

プロセス変革をどのようにして支えるか:組織・人材・インフラの再定義
AI駆動開発を実現するには、ツールの導入だけでは不十分だ。包括的な環境整備が必要となる。AI Development Environment(AIDE)を中核として、複数の要素を統合的に整備する必要がある。
まず技術基盤の整備が求められる。CI/CDツール、プロジェクト管理ツール、チケット管理ツールを導入し、これらのツール間で情報連携を確立する。次にRAG基盤とナレッジの整備が重要だ。要件定義書、設計書、開発ポリシー、コーディング規約など、開発に必要な前提情報へのアクセスを確保する。そして人的要素として、各役割を担う人材の育成、プロセス変革への対応、AIリテラシーの向上といった、組織と人材の両面での取り組みが不可欠となる。
また、AI駆動開発の実現において、「AIネイティブ」という考え方が重要なポイントとなる。これは、AIが主役として機能する開発環境への移行を意味する。
質疑応答では、この概念と類似するAIレディとの違いについて明確に解説した。AIレディは「AIを使える状態にすること」(クラウドレディに相当)を指す。一方、AIネイティブは「AIを第一選択肢として最大限活用すること」(クラウドファーストに相当)である。方向性は同じだが、AIネイティブの方がより強い姿勢で、積極的なAI活用を志向する。
AIネイティブを実現するためには、いくつかの重要なポイントがある。まず、AIが理解・処理・判断しやすいプロセスを構築すること。次に、AIが読みやすいドキュメントを作成すること。そして、AI活用を前提とした周辺環境を整備することだ。人材不足や採用難という背景を考えると、開発の主人公が徐々にAIへシフトする流れは不可避である。

AI駆動開発をどのように実現していくか:実践に向けたステップ
まずは小規模に導入し、成功体験をもとに段階的に浸透していくことが、AI駆動開発実現の鍵となる。
第一ステップとして現状を正しく把握し、方向性を定める。具体的には、自社システムの状況を分析し、AI活用の優先順位を決定する。その際、システム資産と業務カバレッジを把握するとともに、組織のAIリテラシーを評価することが重要だ。
戦略が定まったら、小規模なPoC(概念実証)から始める。1プロジェクト・1システムでの試行を通じて、適切なユースケースやモデルケースを選定していく。重要なのは、実走中のプロジェクトは避け、新規または適切なタイミングのシステムを選ぶことだ。
パイロットでの成功事例をもとに、他システムや他部門へ展開を進める。その際、ツール、組織、人材面の変革を並行して進めることが求められる。
導入後も改善を続けることが重要だ。効果測定とベストプラクティスの学習を通じて、開発標準や制度へ組み込みを進める。また、新技術の継続的な取り込みと、Mode2的な考え方(素早く試行、失敗許容、改善)を徹底することで、AI駆動開発の効果を最大化していく。

実務Q&A:よくある疑問への回答

質疑応答では、実務に関する具体的な疑問が寄せられた。既存システムではどこから着手すべきかという質問に対しては、モダンアーキテクチャが整備されたシステムから始めることを推奨した。具体的には、API連携が充実している、あるいはMCP(Model Context Protocol)に対応しているシステムである。レガシーシステムの場合は、コード解析によるリバースエンジニアリングでAI向けドキュメントを作成し、下流から上流へアプローチする方法も有効だ。
また、経営層をどう説得すれば良いかという質問には、即効性のあるPLインパクトを訴求するより、「やらないことによるリスク」を強調する方が効果的だと回答した。長期的なベンダー依存コストの削減可能性、AI×ビジネス人材の採用困難性、最低限エンジニアのAI対応は必須という認識、これらの観点から、中長期的な競争力維持のための投資として位置づけることが重要である。
AIを活用した改革に向けたRCGの支援
ライズ・コンサルティング・グループは、SHIFTとの資本業務提携により、AIを活用したシステムモダナイゼーションを共同開発している。また、開発プロセスの改善や生成AIを活用した業務改革を戦略/方針策定から実行までを包括的に伴走支援している。単なるツール導入にとどまらず、組織変革を含めた一気通貫の支援を通じて、お客様のAIを活用した変革(AI Tansformation)を後押ししている。