「攻めのDX」のプロジェクトマネジメント

自己紹介と問題提起

「佐藤さん、DXって、どう進めればいいんですか?」、「DX部門に外部のPMOを入れているんですが、スムーズにいかなくて、、、」

最近、このような声をよく聞く。

当社は、2012年の創業以来、Produce Nextをミッションに100件を超えるDXや新規事業を支援してきた。そこで培った「DX × Talent Management」の知見を活かし、「攻めのDXとは何か?」、「攻めのDXの推進の鍵は何か?」をお伝えする。

目次

  • 「攻めのDX」とは?
  • 「攻めのDX」のプロジェクトマネジメントとは?
  • 「攻めのDX」のプロジェクトマネジメント力を上げるには?

「攻めのDX」とは?

DXは「攻めのDX」と「守りのDX」に分けることができる。(図1参照)

このうち「守りのDX」にはRPAやAIによる業務自動化(=BPR)やレガシーシステムの刷新が該当するが、今回は詳細を説明することは割愛する。「攻めのDX」にはデジタルを活用して新しいビジネスモデルや製品・サービスを構築することが該当する。当然のことながら、このような新規事業開発・イノベーションを成功させることは難しい。

 

「攻めのDX」とは?

図1:DXの全体像

図 1:DXの全体像


 

では、なぜわざわざ難易度の高い新しいビジネスモデルやサービスを構築するのかというと、それは「新規事業による新しい成長の柱の構築」と「デジタルパラダイムへの移行」が必要だからである。

VUCAの時代、デジタルによるディスラプトが起き、既存事業が短命化する中、新しい成長の柱を作ることはますます重要になっている。また、デジタルだからこそできる、「顧客データを活用した営業・マーケティング活動」や「新しいビジネスモデルの構築」も同様である。

 

そこで、「攻めのDX」のイメージを掴んでいただくために実際に当社が取り組んだ事例を紹介する。

一つ目はグローバルサプライチェーンをブロックチェーンでデジタル化する事業の立ち上げである。(図2参照)紙の作業をデジタル化することで、4割以上の作業時間を削減しただけでなく、ブロックチェーンの対改ざん性や透明性の特徴により、原本性保証や商品の配送状況をリアルタイムに取得することが可能となった。
 

図 2:ブロックチェーンを活用した事業例

図 2:ブロックチェーンを活用した事業例

 

二つ目はニューノーマルに対応したオンライン営業の高度化サービスの立ち上げである。(図3参照)営業周辺業務である議事録作成の自動化やSalesforceへの入力支援を可能にした。また、会話や表情の分析・営業マンと顧客がどの程度同調しているか?(=ミラーリング)の可視化により、営業マン一人一人にあった効率的な営業改善が可能になった。

将来的には、NGワード抽出によるコンプライアンス強化も実現の見込みが高まっている。
 

図 3:ニューノーマルのオンライン営業事例

図 3:ニューノーマルのオンライン営業事例

 

「攻めのDX」のプロジェクトマネジメントとは?

「攻めのDX」に求められるプロジェクトマネジメントは、通常のプロジェクトマネジメントとは成功の鍵が大きく異なる。本章ではそれぞれの異なる点と、「攻めのDX」のプロジェクトマネジメントの実例をご紹介する。

 

通常のプロジェクトマネジメントにおいては、「リスクを早期発見・予防することで失敗を最小化すること」が求められる。つまり、「リスク・ミニマイズ」が成功の鍵である。一方で、「攻めのDX」では「リターン・マキシマイズ」が重要である。具体的には、「有望なプロジェクトを発掘し、一点突破で事業化につなげていくこと」が求められる。何が成功するのか不透明である為、リソースが許せば、DX案件をポートフォリオ化することが重要となる。成功の鍵以外にも、モニタリング手法、テコ入れすべき案件、意思決定プロセス、方法論、規模化の観点で要求されるものが大きく異なる。(図4参照)
 

図 4:「攻めのDX」のプロジェクトマネジメントの全体像

図 4:「攻めのDX」のプロジェクトマネジメントの全体像

 

実際に「攻めのDX」プロジェクトを進める際は、どのようなことが起きるのか。

金融業界でのDX事業案探索の例を紹介する。このプロジェクトでは、数週間にわたり130以上の先行事例を調査したにも関わらず、有望と考えられる事業案をただの一つも見つけることが出来なかった。通常のプロジェクトマネジメントであれば、これだけ時間を投資したにも関わらずアウトプットが出せないということは許容しがたいことである。

 

しかし、本プロジェクトでは、先行事例探索ではなく課題仮説から事業案を模索する手法に切り替えたことで事業案を複数立案することができた。そして、その中のいくつかは現在事業化に向けPoCの段階を迎えている。「攻めのDX」において多産多死を許容し、柔軟にリソース配分を変えることで難所を超えた好事例といえる。

「攻めのDX」のプロジェクトマネジメント力を上げるには?

それでは、「攻めのDX」のプロジェクトマネジメントを強化するためには、何が必要なのか?この領域のプロジェクトマネジメントは、まだ形式知化・規模化が難しいため、「攻めのDXに長けた人材」が鍵になると考えている。

 

人材が鍵となると、必要なことはタレントマネジメントである。タレントマネジメントのプロセスは様々あるが、当社では「人材要件定義」から「新陳代謝管理」までの6プロセスに分けている。(図5参照)
 

図 5:DX人材のタレントマネジメントの全体像

図 5:DX人材のタレントマネジメントの全体像


 

最近の日本企業では、DX人材のタレントマネジメントに関して、特に採用・育成・評価に課題を抱えるところが多く見られる。実際、2022年5月26日に開催されたハーバードビジネスレビューマネジメントフォーラムにおいて参加者は、DXやイノベーションに関する最大の課題を「人材不足」と「スキル不足」*と回答していた。

*『2022年5月26日開催DIAMONDハーバードビジネスレビューマネジメントフォーラム「プロジェクトマネジメント」のアンケート結果より』

例えば、「どんなスキル・資質の人が攻めのDXに向くかわからない」、「年収がまったく合わず、優秀なDX人材を採用できない」などの声をクライアント企業から聞いている。

DX人材のタレントマネジメントを、もう一段掘り下げて考えてみよう。

DX人材は、「プロデューサー」、「ビジネスデザイナー」、「アーキテクト」、「データサイエンティスト/AIエンジニア」、「UXデザイナー」の5つの職種に分けられる。(図6参照)

 

 図 6:「攻めのDX」を実現するための人材要件

図 6:「攻めのDX」を実現するための人材要件


 

注: 上記職種は、「攻め」だけに必要な人材ではない。「守り」にも必要な職種も存在

出所: 情報処理推進機構「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」(https://www.ipa.go.jp/files/000073700.pdf)

 

これらの職種の中でも、デジタルによる変化を推測する「プロデューサー」、その変化を活かし、事業案を考える「ビジネスデザイナー」の不足が深刻であり、これらの人材のタレントマネジメントが急務となっている。

 

一方、DX人材のタレントマネジメントにおける最大の課題は、「デジタル」と「ヒト」両方の知見を持つ人材は少なく、育成も難しいという点にあると考えている。

例えば、「デジタル」が好きな人材は、「ヒト」への興味が薄く、他人よりも自分のスキルや成長を重視するという傾向がないだろうか?また、「ヒト」が好きな人材は「デジタル」が苦手で、変化より安定・安全を好む傾向がないだろうか?

「デジタル」と「ヒト」の知見を両立させるという課題をどのように解決するか、この難題にチャレンジしていく仲間と一緒に考えていきたいと思っている。

最後に

「攻めのDX」とは、デジタルを活用した新しい製品・サービスやビジネスモデルを構築することである。攻めのDXは、成功することが1,000分の3程度なので、「千三つ」と呼ばれることもある。

 

千三つの世界には、「こうすれば成功する」という型がない。だからこそ、通常のプロジェクトマネジメントと全く異なり、「有望なプロジェクトを探し、一点突破で成功を目指すこと」が鍵となる。そして、そのためには「攻めのDX人材を探索・採用・育成」する必要がある。攻めのDX人材のタレントマネジメントは最先端の経営課題であり、当社も試行錯誤の真っ最中ではあるが、課題解決に向けチャレンジを続けていきたいと考えている。

 

次回の「DX×Talent Management(DTM)」では、攻めのDXのテーマの1つであるメタバースの可能性について、働き方やコミュニケーションなど様々な角度から解説する予定である。

 

執筆者

佐藤 司(さとう・つかさ)
PARTNER
DX × Talent Management
外資系戦略コンサルティングファームやコンサルティングベンチャーの創業メンバーとして、戦略立案から実行まで一気通貫の支援経験を積む。また、人材育成・組織開発の事業会社で事業開発も経験。それらの経験を活かし、直近では「攻めのDX」として、デジタルを活用した新規事業やビジネスモデルの戦略策定・立ち上げ、またDX人材のタレントマネジメント支援に従事。 IT、金融、ヘルスケア、小売業、製造業、エネルギー等多くの業界での支援を経験。 アメリカ・ヨーロッパ・アジアの10か国でのプロジェクト経験も持つ。
DX × Talent Managementプラクティスを牽引。