少子化・人口減少社会における教育-必要なのはコンサルスキル教育ではないか?-

当社は「Produce Next  しあわせな未来を、共に拓く 」をミッションとして様々なクライアントの方々をご支援している。その中で、最近は優秀な人材を必要に応じて採用することが困難になり、多くの企業がこの点を課題に抱えていると感じている。この背景について、生産年齢人口、特に20~30代が、社会や企業の成長に必要な就労人口に対して質量共に十分ではなくなりつつあることが挙げられると仮説を立てている。
 
日本の出生数は2022年に80万人を割り込み、約77万人程度となる見込みが公表された1)。これは2017年に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」における2022年度の出生数予測よりも約10万人少なく、80万人を割り込む時期としても推計より10年早いという危機的な状況である。今後生産年齢人口の減少が加速すれば、日本の経済規模の減少は避けられず、生活水準の低下や、税収の減少による社会福祉の質量低下・瓦解といった深刻な事態も予想される。
 
少子化に対する対策や生産年齢人口の維持には幅広い施策の方向性が考えられる。
 
例えば、少子化に対しては婚姻数を増加させるための施策や婚姻後の出生数を増やすための施策などが考えられ、具体的には安心して出産し育児・子育てできるための制度や経済的支援が検討されている。また、生産年齢人口の維持には、女性が出産後に社会復帰をするための支援や女性登用促進、定年退職の延長努力義務化による高齢者の活用、さらには、外国人労働者の受け入れなどが主な方向性となるであろう。
 
他方で教育が少子化・人口減少社会に果たす重要性も増すのではと筆者は考えている。本論考ではなぜ少子化・人口減少社会において教育の重要性が増すのか、そしてその際に必要な教育内容と提供方法について考察したい。

目次

  • 少子化・人口減少社会における教育の重要性
  • コンサルスキル教育が果たす役割
  • コンサルスキル教育の普及方法

少子化・人口減少社会における教育の重要性

少子化・人口減少社会がもたらす問題として懸念されるのは、経済規模の減少による国民の生活の質が低下することや、社会福祉制度の瓦解などである。ただし、経済規模を仮にGDPとした場合、GDPは人口×一人当たりGDPで構成される点は留意すべきだ。GDPとは「一定期間内に国内で産み出された物やサービスの付加価値の合計」である。つまり、一人当たりGDPとは国民一人がどれだけ付加価値を付けることが出来ているかの指標となる。
 
人口、特に生産年齢人口の減少が避けられないとすると、残された手段は一人当たりGDP、つまり一人ひとりがより高い付加価値をもたらす経済活動を行うことである。誤解を恐れずに表現すると、今後の日本にとって「一人ひとりがより稼げるようになる」ことが避けられない状況になると考えている。
 
これは、稼ぐことに何よりも価値があると主張したいわけではない。国民一人ひとりの人生は各人のものであり、アート・カルチャー、スポーツ、学術研究、医療福祉、公益サービスなど様々な分野で貢献することも同様に素晴らしい価値をもたらすものであり、尊重されるべきである。ただし、今後日本の衰退を防ぐためには、今よりも稼げる能力を持つ人口を増やし、また稼ぐポテンシャルを持つ人材についてはより多く稼ぐための能力を持つように促す必要があるだろう。稼ぎ方は、既存事業を大きくする形でも新規ビジネスを興す形でも構わない。資本主義社会においては、稼いで企業・経済を成長させるというコアがなければ分配もできない。
 
一方で、「稼ぐ能力」は教育で高めることができると筆者は考えている。稼ぐためには、嗅覚やセンスといった教育しづらい要素や困難に負けず物事を推進する突破力、周囲を巻き込む力など、個性に関する要素も大きく影響する。他方で、稼ぐための思考法やコミュニケーション方法は形式知化できる部分も非常に多い。少なくともこの部分の教育を推進できれば、少子化・人口減少社会に歯止めをかける対策として機能するのではないだろうか。

コンサルスキル教育が果たす役割

では、稼ぐための能力のうち形式知化できる部分とはどういうものだろうか。
 
GDPの定義を考えると、稼ぐこととは、付加価値のある物やサービスを産み出し、国内外に販売することだと言える。付加価値は人々の欲求やアンメットニーズ、あるいはペインに対してそれらを満たす・解決することにより原価に対する利益として生じる。したがって、企業には付加価値の高い商品・サービスをどう企画するか、利益を高めるためにコスト構造をどう改善するかという論点に答えを出すことが求められる。また、販売においてはその付加価値を誰に対し、どのようなチャネルやメッセージで届けるかという命題を解かなければならない。
 
これらの活動は、経営コンサルタントが日々クライアントに対して行っていることであり、すでに一部が形式知化されている。つまり、我々がコンサルタントとして教育されたり、クライアントへのご支援の中で身に着けたりしてきたスキルは、今より多くの人が求めている知識なのではないだろうか。
 
コンサルタントが身に着けるスキルは幅広い。ただし根幹としては大きく思考法とコミュニケーション方法に分けられるだろう。思考法とは論点思考と仮説思考それらを行うための構造化、さらには有益な示唆を出すための手法(例:Whyを5回繰り返す)などが代表格として挙げられる。コミュニケーション方法とは、思考法をベースにしたプレゼン構成力、結論から話す等の説明力を意味する。論点思考、仮説思考、構造化についてはそれらを詳述した書籍も多く存在するので、詳細は省くが、簡単にまとめると以下の通りだ。
 
・論点思考
 解くべき命題は何かを特定し、それをどのように分解して答えを出すかを考える力
・仮説思考
 設定された論点についてクイックに情報を集め、答えを仮定し想定される結論の方向性を考える力
 またその仮説が正しいかを検証する方法を設計し、検証の上で仮説を進化させる力
・構造化
 論点思考、仮説思考などを行い、それらをまとめる際に、物事を分類、整理できる力
 (因数分解、MECE、フレームワーク等の手法がそれにあたる)
 
筆者はこれまでに新卒、中途採用の面談・面接を300人ほど行ってきたが、コンサルティングファームを経験していない方で先に説明した思考法を知っていたり、身に着けていたりする候補者は極めて少ない。学校教育および就職後の企業教育でも明示的に教わっていない、あるいは企業の座学研修では教わっても周囲で実践されておらず、身についていないというのが全般的な傾向だと推測している。
 
つまり、現在の日本社会では、思考法を学ぶための有効な手立ては、コンサルティングファームに就職・転職することに限られているのではないだろうか。

コンサルスキル教育の普及方法

では、どのようにコンサルスキル教育を行っていけばよいのだろうか。ここでは対象を社会人と小~大学生に分けて考えたい。
 
まず、社会人教育は主に企業内で行われる教育と企業外で行われる教育とに分けられる。その内容は汎用的なビジネススキルや、エクセル/パワーポイント、IT業界におけるプログラミングなど各業界に必要な技能スキル、さらにグローバルへ事業を進めるための語学スキルなど、実に幅広い。昨今ではビジネススキルとして前述した論点思考・仮説思考・構造化等のコンサルスキルを教える企業や研修会社も増えてきている。
 
ではなぜそのスキルを身に着けた社会人の増加は実感できていないのだろうか?筆者はスキルを実践する場の不足が原因ではないかと考える。
 
当社はコンサルティングサービスの一環として研修を行わせて頂くことが多い。内容は1ヵ月に渡る網羅的なコンサルスキル研修から、特定のトピックに絞って行うこともある。その際に重視しているのは、座学だけでなく実践の場を持つことである。
 
図1、図2はある大手情報サービス企業のプロジェクトマネージャーの方々に行ったプレゼン研修講義資料の一部だ。新規事業の立案方法や、立案した企画を(例えば経営陣に)どのようにプレゼンし説得するのかをお伝えしている。研修の対象はクライアント企業の中で新規事業の立案、立ち上げ、既存ビジネスの拡大を担う方々で、形式知として講義の内容を身に着けていただくことを目的として行った。 

図1:新規事業提案研修における講義内容例1

図1:新規事業提案研修における講義内容例1

 

図2:新規事業提案研修における講義内容例2

図2:新規事業提案研修における講義内容例2

重視したのは実際に立ち上げることを想定して新規事業を考案していただくことと、準備の過程で受講者一人ひとりとディスカッションし、OJTの機能を持たせることであった。OJTの方が座学よりも学習効果が大きいことは広く知られている。
 
研修後も活用できるスキルを身に着けていただくことを狙い、上記の流れで研修を行ったところ、受講生から好意的なフィードバックを多数いただくことができた。
 
ゆくゆくはクライアント企業に所属する社員の方々とコンサルファームでスキルを身に着けた人材が、共に働く場をもっと増やしたいと考えている。実際にコンサルスキルを使う場面を見る機会があれば多くあれば、自らスキルを試すきっかけにもなり、より深く身に着けられるからだ。
 
次に小、中、高、大学のおけるコンサルスキル教育の可能性を考えてみたい。
 
以前、本サイトの「Human Development プラクティス立上げの背景(※リンク)」でも述べたが、現在学校教育は大きく変化しつつある。大学入試改革が行われたことによって、生徒の知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力、主体性・協働性が多面的・総合的に評価されることとなった。この流れを受け、小学校でもアクティブラーニングが導入されるなど「生きる力」を育むことが重視されつつある。
 
一例として、都立の中高一貫校の入試では、適正検査として「ある自然現象から仮説を構築する力」「グラフや統計から示唆を出す力」「論述で結論から述べる」など、相手を説得する力が重視されるようになっている。
 
また、校外学習産業では、アクティブラーニングなどの領域として 探究学習といった教材を提供する事業者も増えてきている。その一例としてa.school(エイスクール)様の事例をお伝えしたい。
 
※a.school について:https://business.aschool.co.jp/
 
a.schoolは2013年にBoston Consulting Groupを卒業した岩田氏が設立した、アウトプット型の探究学習塾の運営や新しい学びの企画開発を行っている会社であり、「没頭したい学びがある、豊かな人生を増やすこと」「0から1をつくりだすような学びを、一人でも多くの子供から大人に届けること」をビジョンに事業を展開している。主に小・中・高校生を対象として様々な探究学習を展開しており、例えば「おしごと算数」や「なりきりラボ」というコースにおいては、実際の職業で行う仕事に近い体験を提供している。その中では、経営コンサルタントも題材として取り上げており、フェルミ推定や統計データの分析・示唆出しなどを課題として取り扱っている。
 
最近、筆者もa.schoolの授業を見学し、経営コンサルタントについての授業の一部に協力させていただいた。当初はこのようなコンサルスキルを小学生に教えるのは難しいのではないかと心配していたが、杞憂であった。
 
例えばフェルミ推定の授業では、タクシー1台や東京メトロが一日あたりに売り上げる金額を題材にしていた。これはコンサルティングファームも面接でよく扱う題材である。
最初はタクシーのお題で、因数分解した要素(タクシーの台数、タクシー会社の数など)をカードで与え、それらを組み合わせて算出する形だ。ヒントとして与えられたカードをうまく活用しながら、小学生(4 ~ 6年生)はそれぞれフェルミ推定の式を組み立てていた。
 
驚いたのは、二つ目の東京メトロを題材にした時だ。ヒントがほぼなかったにも関わらず、小学生たちはそれぞれ算出式を作り、実際に数値を調べ計算していた。さらにその結果は実際の東京メトロの一日当たり売上とケタが合っていただけでなく、2倍以内の誤差におさまっていた。フェルミ推定としては十分すぎる精度である。
 
それ以外にも、ゲーム市場の動きや自転車の販売台数、事故の発生状況といった統計データを読み解き、示唆を出し、提案内容を考えるという題材でもそれぞれ仮説を考えられていた。筆者も仮説の例を提示したが、仮説のロジックにある弱い部分を見事に指摘した小学生もいた。
 
今回、a.school様に協力させて頂いたことで、コンサルスキルをより早い段階から教育できるのではないかという思いがさらに強くなった。

写真1: a-schoolでの小学校高学年向けに行われている「おしごと算数」経営コンサルタントコースの授業風景

写真1: a-schoolでの小学校高学年向けに行われている「おしごと算数」経営コンサルタントコースの授業風景

今回、少子化・人口減少社会における課題とそれに対して教育、特にコンサルスキル教育が果し得る役割、実際にそれを普及する可能性について考察した。社会人と子どもたちの両方に対して、よりコンサルスキルを広めていくべきではないかとの思いを強く抱いており、それは十分実現可能なことではないかと考えている。
 
今後我々は、クライアント企業様を中心にコンサルスキルを社員の皆様にどうやって身に着けていただくか、また、小・中・高校生に対しても、a.school様への協力などを通じ、引き続きコンサルスキル教育普及の可能性を探っていきたい。

2023/01/19