直面する少子高齢化とどう向き合うのか?~「Human Development 」立上げの背景~

自己紹介と問題提起

当社は2012年の創業時、東日本大震災の翌年だったこともあり、「日本の再生」を掲げ、「Produce Next」をミッションに設立された。以来10年、幅広い業界に新規事業などの戦略系案件、業務改革系案件、IT系案件を通じて、DXやカーボンニュートラルなど世の中の変化に対する顧客の次の一手を検討・実行するご支援を行ってきた。今回10年という節目を契機に改めて「日本の再生」という命題を考える上で、最も重要なテーマの一つである少子高齢化という大きな人口動態に対して、コンサルティングファームとしてどのように関わっていくのかを検討した。少子高齢化によって影響を受ける業界は非常に幅広いが、その中でも特に人の健康や能力開発に関わる領域が重要であると考え、「Human Development」(ヘルスケア、教育)プラクティスを立ち上げた。本稿ではその背景についてお伝えしたい。

目次

  • 人口動態から生じる課題
  • ヘルスケア業界に与える影響
  • 教育業界に与える影響

人口動態から生じる課題

日本社会・経済に少子高齢化およびそれに伴う人口減少が大きな影響を与えることは論を待たない。1970年代前半には年間200万人強だった出生数は2000年には119万人となり、2019年には87万人まで減少している。一方高齢化率(65歳以上人口割合)も1970年には7.1%だったが、2000年には17.4%、2019年28.4%まで上昇し、今後20年で35%以上に達することが予測されている(図1)。

 

高齢化に伴い懸念されるのは医療費の増大である。国民医療費は1975年に6.5兆円、2000年に30.1兆円、2019年には44.3兆円となり対GDP比率も4.3%→5.6%→7.9%と上昇し、今後さらに増加することが見込まれている。日本の国民皆保険制度は国民の誰もが何らかの公的保険制度に加入し、1~3割の自己負担で質の高い医療を受けられる非常に優れた制度である。一方、その費用負担は加入者が支払う保険料だけでは賄いきれず、38.3%は国または地方の公費によって支えられており、財政の大きな負担となっている。今後も国民皆保険制度を維持していくためにも、医療費の増大を出来る限り抑え、国・地方への財政負担を持続可能なものとする必要がある。

 

少子化により日本経済に大きな影響を与えるのは生産年齢人口(15~65歳人口)の減少である。生産年齢人口は1995年の約8,700万人をピークに減少を続けており、2015年には7,700万人、2030年には6,900万人まで減少すると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所)。労働に従事する人口が減れば経済は縮小する。この影響を緩和するためには、女性、高齢者の労働参加や外国人労働者の受け入れ増大などとともに、労働者一人当たりの生産性、特に企業においては従業員一人当たり利益をいかに向上させるかが重要となる。
 

図1:人口動態の推移と将来推計

図1:人口動態の推移と将来推計


出所:内閣府
高齢化の現状と将来像|令和2年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府 (cao.go.jp)

ヘルスケア業界に与える影響

一口にヘルスケア業界といってもその範囲は広い(図2)。大きくは「未病・予防・健康増進」領域、「治療」領域、「介護・生活支援」領域に分けられると考えられる。「未病・予防・健康増進」領域には健康食品、サプリメント、フィットネスといった業界が該当し、「治療」領域には病院、歯科、製薬、医療機器が、「介護・生活支援」には主に介護やリハビリ業界が該当すると想定できる。ヘルスケア業界に大きな影響を与えているのは、上記の高齢化に起因する要因が大きいが、その他にはデジタル技術や医療技術の革新に起因するものも無視できない。この二つの要因から考えられるヘルスケア業界の課題として、診療報酬・薬価の改定による医療費・薬剤費の抑制にどう対応していくのか、健康寿命延伸への必要性に対し、デジタル技術を活用した「未病・予防・健康増進」領域でどのような事業を立ち上げるのか、遺伝子治療・細胞治療・デジタル医療といった新しい領域にどう対応していくのか、などが挙げられる。

 

医療費・薬剤費の抑制に関しては病院の経営上も大きな課題だが、製薬業界にとっても重要な環境要因である。日本ではこれまで2年に1回に薬価の改定が行われその度に平均で約4~7%薬価は下がってきた。2020年からは毎年薬価が改定されることとなっている。その結果2021年時点で国内医薬品市場は10兆5,990億円で、2014年~2019年で見たときCAGRは-0.2%と若干のマイナス成長となっている。加えて、遺伝子治療・細胞治療・デジタル医療など、従来の薬物療法の代替となる治療法が今後普及してくる可能性もあり、国内市場が伸びない中、各製薬会社はどのような戦略を取るべきなのか、重要な局面にあると考えられる。この点については別の回で詳しく考察する。

 

また、 昨今ウェアラブルデバイスが普及しつつあることからパーソナルヘルスレコード(PHR)としてのバイタルデータの収集が容易になり、これを健康管理や疾病予防に活用しようという動き、さらには電子カルテ、レセプトなどのリアルワールドデータと組み合わせ、より高度な予防・治療サービスを検討する動きもある。しかしながら、センシティブな個人情報をどのように取り扱うのか、といった問題や、いかにしてマネタイズするのか、といった問題を解決する難易度が高く、必ずしもスケール化に成功している事例は多くない。「未病・予防・健康増進」領域は、健康寿命を延伸し、医療費・薬剤費の抑制に寄与する領域であると考えられ、上記の問題に対するブレークスルーをいかに起こすかが喫緊の課題といえる。

図2: ヘルスケア領域の主要課題

図2: ヘルスケア領域の主要課題

図3: ヘルスケア業界のマクロ動向

図3: ヘルスケア業界のマクロ動向

教育業界に与える影響

学校教育を含めた教育業界が目指す目的とは何であろうか?非常に大きな命題であり、様々な意見・見解がある領域ではあるが、ここでは一人ひとりの機会の平等の担保と社会・経済に必要な人材の育成であると仮置きしたい。一人ひとりの機会の平等の担保とは、生まれた地域・家庭に関わらず、児童・生徒が視野を広げ自分の関心事を見つけられ目標に向けて必要な教育を受けられる/受けるチャンスを与えられることだと考える。社会・経済に必要な人材の育成とは、日本の社会・経済の世界における位置づけの変化に対し、その文化・経済の維持発展に資するスキルを身に着けさせることであると設定したい。

 

一人ひとりの機会の平等の担保については、日本は比較的高い水準にあると思われる。日本のどこに生まれても義務教育を受けることができ、大学も充分な定員を有している。実際、少子化の中でも大学の定員は2000年の53.5万人から2018年には61.7万人へと増えており、大学進学率も39.7%から53.3%へ上昇している。2018年の大学志願者数は67.9万人であり、数字的には志願した者のほとんどが大学に入学できる状態に近づいていると言える。一方、地域によって受けられる教育(特に塾などの校外教育の機会)に格差がある、所得が低い生活保護世帯の子供達の大学進学率は19.9%と極端に低い、また、病弱児の教育の機会が十分担保されていない、などの課題は残っており、引き続き絶え間ない改革努力は必要と考える。

 

社会・経済に必要な人材の育成については、少子化による生産年齢人口の減少に対して、一人当たり生産性を上げるためにも重要な点である。課題を発見し、その解決策を考案、実行できる人材が今後益々必要であり、それに向けて学校教育において既に改革が行われている。大学入試改革は生徒の知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力、主体性・協働性などを多面的・総合的に評価するために行われている。またITスキル向上も目的にGIGAスクール構想で小中学校では一人一台端末を持つことがほぼ達成された、高等学校でも数年以内の達成が見込まれている。加えて、小学校でプログラミングや英語の授業が開始され、アクティブラーニングも導入されるなど、社会の要請に応じて、これまでよりも「生きる力」を育むべく、入試や公教育のカリキュラムは改革され、今後実際に効果を出していくフェーズへと移っていく。また、公教育のカリキュラムでは物足りない秀でた能力を持つ、Advanced Learnerに対しての対処も昨今注目されつつある。

 

同様の傾向は校外学習産業でも見られ、幼児・児童向け英語学習、プログラミング、アクティブラーニングなどの領域が比較的活発な領域である。少子化は連綿と続いているが、校外学習への支出は増加しており、教育産業の市場は微増を維持していると言われている。しかしながら、大学入試改革に端を発した上記のような公教育の変化も考えると校外学習を担う教育産業においても提供する商品・サービスを変化させていく必要性に迫られているといえるのではないだろうか。

図3: 教育業界の主要課題

図3: 教育業界の主要課題

最後に

「Human Development」では、上記の通り、日本の人口動態から生じる課題の中で特にヘルスケア業界と教育業界の課題に対するご支援に当社として力を入れていくことを目的にしており、「日本の再生」、「Produce Next」というミッションを果たしていきたいと考えている。今後はより個別の課題や対処方法について検討、提言していきたい。

 

次回の「Human Development」は、上記でも言及した、製薬業界が置かれている状況を詳述し、各社が今後検討すべき戦略の方向性を考察する予定である。

2022/07/06