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投稿日:2022年07月06日
PMO

コモディティ化するPMO

「PM業務の80%が2030年までにAIによって無くなる」 

2019年3月に、ガートナー社からこんなニュースリリースが発表された。内容は、「進化したAIが、従来のPM機能(データ収集や分析、可視化など)を受け持つことになるため、2030年までに、PM作業(≒PMO業務)の80%が無くなる」というものだ。日本においては、ちょうどDX(Digital Transformation)の波が高まりつつある中であり、それなりにインパクトのあるニュースとして受け止められた。 

「Gartner Says 80 Percent of Today’s Project Management Tasks Will Be Eliminated by 2030 as Artificial Intelligence Takes Over」 (March 20, 2019) 

出所:Gartner, Inc.(https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2019-03-20-gartner-says-80-percent-of-today-s-project-management 

 

それから3年、その間にCOVID-19パンデミックの影響もあり、急速にリモートワーク化が進むなど、社会環境・労働環境が大きく変わり、with/afterコロナ時代が語られている。一方では、プロジェクトマネジメントのデファクトスタンダードであるPMBOKが、時代の流れを反映する形で、2021年8月に新たに第7版をリリース、これまでの「プロセスと成果物」中心の考え方から、「原理原則と提供価値」という形で大きな変更を行った。 

このような企業およびプロジェクトマネジメントを取り巻く環境変化を受けて、あらためて、「2030年までにAIによってPMO業務(※1)の80%が無くなる」ことを、当社のPMO(Project Management Orchestration)プラクティスの初回記事として考察していきたい。 

 

なお、本記事で取り上げる“PMO”業務とは、日本国内で一般的に語られるPMO業務であり、特定プロジェクトにおけるマネジメント業務である。複数プロジェクトを横断でマネジメントする“プログラムマネジメント”、あるいは“EPMO”(Enterprise Project Management Office)、海外で主流となっている“PPM”(プロジェクト ポートフォリオ マネジメント)を論ずるものではない。 

目次

コモディティ化するPMO業務

8つのマネジメント領域 

PMO業務を、そのタスク構成要素に分解すると以下<表1>のように表現できる。立上げ時と運営時に大きく二分でき、①プロジェクト企画、②ツール環境整備、③マネジメントルール整備、④プロジェクト計画、⑤情報収集(調整・収集・集計・レポート)、⑥情報分析(課題分析)、⑦解決施策検討・実施(課題解決)、⑧意思決定、となる。 

 

図1:8つのマネジメント領域

 

・情報収集の工数が全体の50% 

プロジェクトの規模や特性により、それぞれのタスク構成要素の明示的な実施可否や、その工数配分などは変わってくるものの(※2)、プロジェクトメンバーが数10人以上の規模となれば、現在のPMO業務は、概ね<表1>の右側の列のような工数配分になる。すなわち、プロジェクト運営時においては、情報収集に50%程度の工数を割いているが現状となる。これはこれで非常に重要な作業であり、この作業が不正確・迅速に行えないと、マネジメント品質全体を低下させることになる一方で、あくまでマネジメントのベース作業であり、可能な限り工数をかけたくないという実情がある。

 

・システム化・効率化を阻害する3つの要因と80%のコモディティ化 

昨今、多くのプロジェクト管理ツール製品が出ているが、EXCELやPPTベースでの管理がまだまだ多いのが実情でである。プロジェクト管理ツールを導入していたとしても、課題管理や進捗管理など、個別のマネジメント領域への適用がせいぜいという状況となっている。 

そして、このPMO業務のシステム化・効率化が進まない要因は、<図1>に示すように、システム機能の側面、業務ルールの側面、そして改善意識の側面と、3つの側面がある。 

 
図2:PMO効率化を阻害する3つの要因

 

ただし、これらの課題は、主に海外からの“統合”プロジェクト管理ツールに牽引される形で解消に向かっている。そして、それはまず⑤情報収集の領域を中心に進み、次にAI適用による⑥情報分析(AIによる自動的な課題抽出)および、⑦解決施策検討(AIによる解決施策シミュレーションとレコメンデーション)の領域まで広がると考えられる。また④プロジェクト計画においても、AIによるリソース計画やタスク詳細化の予測分析も可能になると考えられる。 

 

このことから、先のガートナー社のニュースリリースがいう通り、およそ80%程度のPMO業務は、システムによる自動化など、その手法が標準化、すなわちコモディティ化され、この先大きく変わっていく、PMO業務が次のステージに進んでいくことになるのは間違いないであろう。 

これからのPMO業務 ~ 注力すべき4つの領域 ~

では、これからのPMO業務はどのようになっていくのであろうか? 

 

8割がシステム化されるので、企業としては残りの2割のPMO工数で業務を回していくことが可能となる、そう考えることができるのであろうか?実際に、当社が多くのPMO案件を扱う経験からすると、むしろその8割のPMO工数を“本来あるべき”業務領域に割り振り、プロジェクトの成功率を向上させるべきであると考える。そして、それが出来るPMOがこの先の違いを生み出す、価値を生み出すPMOになのである。

 

この“本来あるべき”PMOの業務領域、今後シフトしていく業務領域は、大きく4つ存在する。それぞれ、①企画・コーディネート、②課題解決、③ステークホルダーマネジメント、④現場(実務)サポート、の4つである(<図2>参照) 

 
 図3:これからPMOが注力すべき4つの領域

 

まず1つ目の「企画・コーディネート」。これまでは、プロジェクト運営(実行)時に軸足を置いていたPMOは、今後は立上げ時においても、プロジェクトマネジメントスキルを活用し、支援すべきである。初期から、プロジェクト自体の企画・構想・計画支援に携わることで、プロジェクトの成功率を上げる、プロジェクト品質を作り込むことが可能になると考える。 

 

2つ目はプロジェクト運営時における「課題解決」。情報収集や分析はシステムやAIに任せつつ、その結果に基づく対策立案と実行に注力することが求められる。それには、対策立案力と実行力が求められる。 

 

以上2つは、プロジェクトのプロセスを切り口としたものでしたが、残りの3つ目「ステークホルダーマネジメント」、4つ目「現場(実務)サポート」は、組織体としてのプロジェクト全体をマクロ的に見た対応と、プロジェクト内をミクロ的に見た対応である。どれだけシステム化やAI化が進んでも、人の集合体であるプロジェクトでは、多くの関係者の思惑が交錯するもの。PMOは、それぞれのステークホルダーの思惑を理解・調整・ファシリテートし、柔軟に変化に対応しつつ、ゴールまでリードしていくことが求められる。一方では、個別のチーム状況を把握しつつ、プロジェクト進行を妨げる課題が発生した場合、PMOが遊軍として、現場(実務)サポートまで入り込むことで、プロジェクト全体のレジリエンスを高めていくことが求められる。 

 

以上、4つのPMO業務領域がこの先特に重要になると考えており、企業はこれらのスキルを持つPMOを活用し、プロジェクトの立上げから運営までを効果的に行っていくことが求められる。 

最後に ~ Project Management Orchestrationに込める思い ~

多くの企業におけるBPRプロジェクトやシステム刷新プロジェクトのPMOは、まだまだ改善余地があるといえる。現在は、これまで述べてきたとおり、情報収集に工数を割かれてしまい、本来あるべき課題解決などに十分工数を割くことができず、結果としてプロジェクトの成功率もいまだに50%を越えるか越えないか程度となっている。しかし、それもDX・AI化の流れの中で、今まさに改革が行われようとしている。 

 

そのような中で、当社はこの課題を解決するためにPMOプラクティスを立ち上げた。PMOの“O”を、Orchestrationの“O”として位置付け、PMO業務のコモディティ化への適応、プロジェクト資源の最適な選択、編成、自動化・連携化の実現、そして、これまでの述べてきた4つの業務領域に対応できる人材の育成を進め、PMO業務の高度化・効率化に向けた取り組みを行っている。取り組み内容の一例としては、プロジェクトテーマ・領域に応じたマネジメント業務のテーラリングや、プロジェクト立上げやプロジェクト運営の課題を効率的に拾い上げるアセスメント対応などがある。今後は、より一層、プロジェクトの成功に寄与するサービスの開発や提供を目指し取り組んでいきたい。 

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