業務変革プロジェクトのデジタル化

はじめに

コロナ禍で多くの企業が新規事業開発やDXなどの事業変革に取り組んでおり、コンサルティングファームに声がかかる機会も増えている。クライアント企業の変革を支援する当社も、顧客ニーズの変化やデジタル技術の発展を踏まえて、持続的に変革していくことを志向している。

 

当プラクティスでは、業務改革プロジェクトを例に方法論としてのSX*も意識したコンサルティングサービスのデジタル化について具体的な検討を開始しており、今回はその一端をご紹介したい。

 

*SX(システムトランスフォーメーション):戦略、組織、人財、業務オペレーション、ガバナンス、風土・カルチャー、デジタル技術・IT、社会などを有機的に絡み合う「システム」として捉え、問題の根本原因や抜本的な対策に着目した解決策を導く考え方。

目次

  • 業務改革プロジェクトのステップ
  • 「仮説構築」と「現状分析」
  • デジタル化の意義
  • コンサルタントとデジタルの融合
  • 最後に

業務改革プロジェクトのステップ

業務改革プロジェクトを進行するステップは、例えば5つに分解できる。

 

まず「仮説構築」でどこに問題があるかあたりをつける。次に、業務内容やプロセス、業務量を可視化する「現状分析」を行う。そして、目指すビジョンや目的などから「あるべき姿定義」を行い、GAP分析によって打ち手の方向性も検討する。さらに「実行計画策定」で打ち手の実現に向けた計画や見込まれる効果、パートナー企業の選定を行って体制を固め「実行」に移る。実行後も内部・外部環境の変化を踏まえて経過・結果を評価しつつ、再び必要な手を打って行くというのが一連のサイクルだ。

 

この中で、我々が優先的にデジタル化していくべきと考えているのが「仮説構築」と「現状分析」、そして「実行」のステップである。(図1)

 

当プラクティスでは、まずは初期ステップにあたる「仮説構築」と「現状分析」にフォーカスして検討しており、以降はこれらのデジタル化の余地について記述する。

 

なお、当社における「実行」はPMO業務が比較的多く、これに関してはPMOプラクティスの記事[コモディティ化するPMO]が関連するため参照されたい。

 

図1:業務改革プロジェクトの推進ステップ

図1:業務改革プロジェクトの推進ステップ

「仮説構築」と「現状分析」

業務改革プロジェクトの中でも、このステップはクライアント企業とそれを支援する我々の双方にとって“重要”かつ“工数を要する”という意味で“重たい”ステップだ。

 

これがいかに大切なステップであるかは触れるまでもないが、原因を誤って認識したまま打ち手の検討に進んでしまうと、当然課題は解消されない。また、感覚だけで突き進むと何のための施策かが不明瞭になり「やり方が変わっただけで成果に結びついてないのでは」という懸念を生むことになってしまう。そのため、始めの検討はとても“重要”なのである。

 

課題の原因にあたりを付けるためには、クライアント企業で複数の従業員に現状認識や課題、原因の所在についてそれぞれの視点からの意見を伺うことが肝要だ。

 

現状を可視化するには社内の紙や電子データの情報の収集が必要で、万が一情報が不足する場合には従業員への聞き取りを再度行わなければならない。これらの情報が整理できたら実態と齟齬がないか改めて確認をする必要がある。

 

なお、原因分析に際しては、業務プロセスだけにフォーカスせずに戦略や組織、人財、オペレーション、ガバナンス、風土・カルチャーなど、クライアント企業がどういった仕組みで動いていて、それがどう作用しているのかを把握することも重要だ。

 

以上のことから、クライアント企業の従業員とコンサルタントの双方が相応の“工数を要する”のである。

デジタル化の意義

この重たいステップをデジタル化することの意義は、負担軽減の他に高品質での均質化、そして検討の短期化にある。

 

繰り返しになるが、原因分析のためには、ヒアリングなど人対人のコミュニケーションが不可欠だ。普段我々がヒアリングを行う際「表面化している課題は何か」「原因はプロセス以外にないのか」といった視点で現場における違和感の所在を探る。その際、発言内容だけではなく、表情や仕草、声のトーンなどといった感覚的な要素も併せて掘り下げるように努めるが、こうしたスキルはコンサルタントの経験・技量に左右されがちで、アウトプット品質にばらつきが出てしまう。そこで、デジタル技術を活用した高水準での均質化が必要になる。

 

クライアント企業にとって、検討の短期化は特に重要である。業務改革の主目的は検討ではなく、生産性や品質の向上、それによる顧客などステークホルダーへの価値の最大化にある。業務改革プロジェクトはあくまでそれを実現するための枠組みであり、ここにかける時間は短ければ短いほど良いはずだ。VUCAの時代においては、迅速な経営判断とそれを即座に形にしてPDCAを高速で回すことが重要であり、業務改革プロジェクトのデジタル化もこれに資するものと考える。

コンサルタントとデジタルの融合

当プラクティスにおいてまだ議論は尽くされていないが、筆者個人としては、業務改革プロジェクトにおけるデジタル化の目指すところは「コンサルタントとデジタルの融合」だと考える。さらにその先に、クライアント企業の新たなサービス提供の可能性もあると考えている。

 

人から情報を取得するヒアリング、業務一覧や業務フローを作成する際の従業員への確認については、AIなどがコンサルタントを代替し完全なデジタル化が行われるとはまだ想像しにくい。特に技術面では、インタラクティブなコミュニケーションと意味のある情報の抽出、そこで得た非定型情報を分析可能な定型情報に高い精度で落とし込む点など、まだまだ課題があると考えている。

 

一方、先に述べた「高品質での均質化」については、コンサルタントの経験や社内外に蓄積された情報を体系化することで、仮説構築や現状分析に必要な情報が項目と粒度の観点で漏らさないように、コンサルタントへサジェストするような形で実現可能と考える。さらに、取得した情報を初期的に整理・分析してコンサルタントの分析のたたき台を作ることも考え得る。コンサルタントによるヒアリング前に、クライアント企業が自ら初期診断(どんな課題があり何が原因でその場合どのような打ち手が考えられるか)できるようなツールを提供できれば、これもまた有用であり、この点についてはプロトタイプ構築に向けた検討も進めている。

 

クライアント企業内で課題の整理や現状業務の可視化が進んでいない状況においては、一定の工数を割いて状況を整理していく「仮説構築」や「現状分析」のステップがどうしても必要になってくる。一方、これらのステップを一度踏んだ企業においては、改善後の業務状況をモニタリングして変化を検知することで、このステップを極小化し、直ちに「あるべき姿検討」や「実行計画策定」に取り組めるような仕組みが構築できるはずだ。現時点では、現場の従業員などが「何かがうまくいかない」「無駄な時間がかかっている気がする」と認識した時に現状を紐解いており、ともすればそのたびに「現状分析」を行っている可能性さえある。

 

改革時の整理結果を元に、新たなプロセスが追加されたり工数が極端に増えたりした場合にアラートが出て、その対応を検討するといった流れはカイゼン活動そのものであり「業務可視化ツール」のようなサービスを導入している企業も多いのではないか。

 

しかし、多くの業界・多くの部門で人手不足が進行し、働き方改革も進む中で、こうした体制の構築やリソース維持が困難となる可能性はある。また、外部環境の目まぐるしい変化にさらされる中で、新たな機能や技術の獲得が遅れ、気が付かないうちに相対的に競争力が低下していく可能性もある。今後は内部の業務プロセスの変化だけではなく、こうした外部環境の変化なども踏まえて日々のカイゼン活動を支援するといったことも考えられるのではないだろうか。

最後に

コンサルサービスのデジタル化自体は、最早新しい考え方ではない。数年前から、自社で開発機能などを持たないコンサルファームが、AI開発やビッグデータ解析を行うスタートアップと提携を結んだり買収をしたりして、サービスのデジタル化に必要なピースを埋めている。

 

当社においても様々なパートナー企業と連携してこれを実現していきたいと考えている。当プラクティスにおいては、SXの考え方を定型化していくなかで、アカデミックな知見を取り入れることができないかという検討もしているが、当社だけではとても立ち行かない。筆者がもう一つの社内取り組みとして在籍している地方創生・SDGsの領域でも同様だが、企業の課題解決と社会課題の解決においてはどちらも「競争」ではなく「共創」することが重要であり、引き続きこの視点で取り組みを推進していきたい。

2023/01/11