業務改善自体の「デジタル化」

目次

  1. 移動通信業界、いわゆるモバイル業界では経済圏作りが活況
  2. 経済圏作りに向けた投資資金確保の課題
  3. これまでの業務改善の課題
  4. プロセスマイニングの概要
  5. プロセスマイニング導入の障壁
  6. 最後に

1.移動通信業界、いわゆるモバイル業界では経済圏作りが活況

モバイル業界では、国の介入などにより回線系ARPU(Average Revenue Per User:1ユーザーあたりの平均売上金額)の成長率がダウントレンドであり、個社ごとの回線系ARPU向上も困難な状況である。
併せて、モバイル端末の累計契約数はすでに日本の全人口を超えており、端末の世帯普及率も合計100%を超えているため、回線契約数の大幅な増加も見込めない。
この市場飽和を前提として、モバイル業界では金融や法人DXといった非通信事業の拡大に注力し、自社経済圏への囲い込みを志向している。
例えば、直近ドコモ社によるマネックスグループとの資本業務提携やオリックス・クレジット買収など、金融領域への注力が挙げられる。他社と同様に銀行を傘下に入れる日もそう遠くはないだろう。

2.経済圏作りに向けた投資資金確保の課題

自社経済圏への囲い込みには、顧客満足度やリテンションの向上が必要で、パーソナライズされたサービス提供やUI/UXの向上などへの注力しなければならない。加えて、IOWN構想やIoT技術の拡大など、モバイル業界は技術の発展と隣り合わせで変化が非常に早いため、対応にもスピード感が求められる。
昨今、停滞している通信業界の状況も踏まえ、今後ビジネスを成長させるためには大幅な投資余力の捻出が肝要だろう。
 
投資余力を捻出するためには、売上高の向上やコスト削減といった方法がある。売上高は、ARPU単価を上げるか契約数を増やせば向上する。一方で、前述したように市場は既に飽和状態のため大幅な向上は見込めない状況だ。
売上高を向上する方法として、他には新規ビジネスの立上げなどが考えられるが、収益化までに時間を要し、立ち上げにはさらなる資金確保が必要だ。これらを踏まえると、着実にコスト削減を行うことが投資余力の捻出への一丁目一番地と考える。
コスト削減はさまざまな切り口があるものの、本稿では業務改善を主として取り上げる。

3.これまでの業務改善の課題

モバイル各社はコスト削減を始めとする諸問題に対応するため、業務改善として自社の業務フロー全体の見直しと効率化を継続的に進めている。一方で、新たな課題も浮上している。
本章では旧来型でアナログベースな業務改善が陥りやすい3つの課題を紹介する。
 

① 局所的・恣意的なスコープ

従来の手法では、対象となる各事業部門の担当者にヒアリングを行い、改善対象のスコープを設定するのが一般的である。
この手法では納期/コストの制約からヒアリング対象に漏れが生じ、正確な情報が十分に収集できず情報が断片化しやすい。また、ヒアリング先の偏りやヒアリング対象者からの恣意的な回答などで改善対象のスコープが限定的になり、投資対効果の推定は正確性に欠ける傾向がある。
 

② 高止まりする改善コスト

情報精度・改善対象のスコープの網羅性を担保するためには、複数の担当者や管理者へのヒアリングを重ねなければならないため、イニシャルコストに含まれるヒアリング対応コストが高額になる傾向がある。

さらに、特定のスコープで実施した業務改善施策を社内で横展開する場合、規模が同じであればコストも同じ程度に必要となる。つまり規模に比例してイニシャルコストが増大してしまう。情報精度とスコープ網羅性を低コストで両立するには、より効率的な手法の検討が肝要だ。
また、ランニングコストにも着目したい。昨今の代表的な業務改善手法に、RPA(Robotic Process Automation)があるが、ランニングコストに含まれるRPAのライセンス費やメンテナンスコストを踏まえると、投資対効果が限定的となるケースも散見される。例えば、業務を自動化してオペレーション部門の効率化・コスト削減を図っても、逆にRPAのメンテナンス部隊を組成する必要が出てくるといった具合だ。
この状況を防ぐために投資対効果の算出を行う場合もあるが、得てして形骸化しやすいように思われる。ランニングコストを踏まえた投資対効果を簡易的に算出し、実態として効果のある業務改善・自動化を志向することが肝要だ。
 

③ 継続性なき筋肉質化

業務改善後も、人手による処理や業務の属人化が起こり、策定した標準プロセスからの逸脱やモニタリングの未実施が生じやすくなる傾向にある。
また、導入したツールやRPAなどのソリューションが効果的に活用されず、その利用状況が不明瞭となり、追加の改善策を打つのが困難になる場合が多い。
つまり、改善後のモニタリングが機能せず、結果として業務改善そのものの効果およびその持続性が課題となってしまうのだ。
 
これら3つの主要課題に対し、デシタルを活用した効率的・効果的な業務改善ソリューションである「プロセスマイニング」を提案したい。

4.プロセスマイニングの概要

プロセスマイニングとは、業務で利用するソフトウェアシステムに記録されている「イベントログ」から「実績に基づく業務プロセス」を可視化し、業務改善を目指すデータ分析手法である。
業務で利用するソフトウェアシステムには、業務プロセスで発生する様々なイベントログが記録されている。このイベントログをもとに、プロセスマイニングツールのアルゴリズムが業務プロセスの可視化を行う。利用者は可視化された結果をツールの分析機能で多面的に評価し、業務プロセス上の課題を実績に基づき抽出できる。抽出した課題への対応策を立案・実行することで、効率的・効果的な業務改善できるだろう。
また、同ツールを用いれば、先述した業務改善における課題に対しても、以下のように対応できる。
 
① 実績に基づく全量分析により、業務プロセスを網羅的に可視化できる。可視化された結果を多面的に評価し、業務負荷や偏りのダッシュボード化、ボトルネック業務の特定と定量化、担当者間における関係性が可視化できる。
 

図1:業務プロセスの網羅的な可視化イメージ
図1:業務プロセスの網羅的な可視化イメージ

 
② イベントログから業務プロセスを網羅的に可視化できるため、ヒアリングコストを圧縮することができる。ツール機能により、業務フロー変更やツール導入時の効果算定も可能となる。
 
③ 可視化したプロセスフローと、マニュアルなどで定める標準プロセスとの比較分析を実施することで、標準プロセスとは異なる逸脱プロセスや、違反プロセスを特定できる。
導入後はログデータを蓄積することで継続的な業務改善を実現する。
 

図2:業務フロー変更・ツール導入時の効果算定/逸脱検知のイメージ
図2:業務フロー変更・ツール導入時の効果算定/逸脱検知のイメージ

 

図3:プロセスマイニングによる業務改善の高度化
図3:プロセスマイニングによる業務改善の高度化

5.プロセスマイニング導入の障壁

一方で、プロセスマイニング導入にあたっての障壁も存在する。
① サイロ化したシステム
② ログデータの整備不足
 

①サイロ化したシステム

ボトムアップ型企業の多い日本では、部分最適のシステム導入が主流であり、部署ごとに異なるシステムを導入している場合が多い。
例えば「受注業務」のプロセスは「受注」「出荷指示」「出荷」「請求」「入金確認」など複数の業務プロセスによって成り立っている。しかし日本企業では、これら複数の業務プロセスに対して異なるシステムが導入されている場合が多く、取引IDもそれぞれ異なる。
プロセスマイニングの導入には、複数の業務プロセスを横断した共通の取引単位を用いたデータの紐付けが必要となる。具体的には、複数システム間の取引IDに対し、共通の複合キーを元に関連付けて一連のプロセスに再定義する。
「マルチレベルプロセスマイニング」という機能により、横断的なキーの生成を行うことで同課題の解決を図っているベンダも存在する。ただ、この実装は一部のベンダだけに留まっているため、プロセスマイニングを導入する場合は「システム横断での導入可能性があるか」が選定時の大きな論点になるであろう。
なおトップダウン型企業の多い欧米では、SAPなど単一のERPによる経営管理・業務実行が主流であるため、取引IDの関連付けに関する考慮が少なく、プロセスマイニング導入が比較的容易といえる。
 

図4:複数システム間でのプロセスマイニング導入に必要な機能
図4:複数システム間でのプロセスマイニング導入に必要な機能

 

②ログデータの整備不足

プロセスマイニングに必要な最小限のデータは、取引ID、アクティビティ名、タイムスタンプ、オペレーター名の4つである。汎用性が高いため、導入の実現性が高い企業が一定数あると予想される。
※複雑なログデータの場合は、データクレンジングにより解決可能な場合も多いため、まずはコンサルタントやベンダに相談されたい
 
一方で、システムのログデータは障害などのシステムの運用・保守の際に利用することが本来の目的であり、業務分析目的で具備されていない。したがって、プロセスマイニングを導入するうえで必要なデータが揃わない場合もある。
その場合は、別ソリューションである「タスクマイニング(概要:PCログを活用し、簡易的に業務を可視化ツール)」を活用し、業務改革の後システム改革を行ったうえで、必要な機能を具備するといった手立てが考えられる。

6.最後に

未だ多くの企業が業務改善手法について課題を抱えており、効果的・効率的な改善には繋がっていないといえる。上述のとおり、旧来型でアナログベースな業務改善手法は、業務プロセスの可視化や分析のために様々な関係者にヒアリングを行ったり、業務フローを手作業で整理したりするなど、多大な時間とコストを要する。また、投下したリソースに対して情報の正確性やスコープの網羅性に欠けることにも課題があった。しかし、DX・AI化の流れの中で、それらに対する改革が行われようとしている。
ガートナー社の調査によれば、2025年までには、コスト削減や自動化による業務プロセスの効率化を志向する組織(企業や非営利団体・政府等)は、ビジネスオペレーションの少なくとも10%にプロセスマイニング機能を組み込む予定あり、と注目度が高い。(注1)
プロセスマイニングは、システム導入と組み合わせることで、業務改善による工数削減だけでなく、営業効率向上やリードタイム削減にも寄与することができる。
こういった最新技術が日本企業に広く普及し、PRODUCE NEXTへとつながるように、当社もコンサルティングを通して貢献し続けていきたい。

2024/04/24