VUCA時代に求められるプロジェクトマネジメント手法

目次

■VUCA時代のプロジェクトマネジメントの難しさ
■求められるプロジェクトマネジメント手法 ~これまでの「中央集権的PMO」から「自律分散型PMO」へ~
 ●観点1:PMO立ち位置(型)の可変性
 ●観点2:スピリット・アプローチ

VUCA時代のプロジェクトマネジメントの難しさ

約10年前からビジネスにおいてVUCA時代という言葉が使われるようになった。ここ数年、急速な円安、ウクライナ戦争、コロナウイルス蔓延、超高齢化社会の到来など、VUCA時代を象徴する環境変化はより急速に進んでいると感じる。

 

環境変化が進むほど、プロジェクトマネジメントの難易度は格段に上がる。理由は大きく2つある。
1つ目は、将来の予測可能性が低下しリスクマネジメントが難しくなることだ。想定外のリスクが顕在化し、当初のプロジェクト計画の根幹(スコープ、アプローチなど)の見直しが迫られることがありうるようになるだろう。
2つ目は、リスクの顕在化をいち早く察知し対応する必要性が高まることだ。適切に状況把握ができないと、その分リカバリーの影響範囲が広がるため、状況変化のスピードや頻度が高まるほど、PMOには高い柔軟性と俊敏性が求められる。

 

プロジェクトマネジメントの難易度は、プロジェクトの成否に直結するため、クライアントのプロジェクト責任者にとって、精神的な負担が大きいと考えられる。

 

筆者は、全社IT戦略、業務改革の構想策定・実行支援などに係るプロジェクトマネジメントを担当し、さまざまな業種・業界のクライアントの課題解決に取り組んできた。今回は、現場での経験を踏まえて、VUCA時代に求められるプロジェクトマネジメント手法とは何であるかを論じる。

求められるプロジェクトマネジメント手法~これまでの「中央集権的PMO」から「自律分散型PMO」へ~

プロジェクトマネジメントと一口に言っても、案件種別やフェーズによって動きが変わることは既にご存じだと思うが、VUCA時代におけるプロジェクトマネジメントでは、求められる動きに共通の特徴が複数あると筆者は考えている。
貴社で実際に遂行中のプロジェクトにおいて、それらの特徴を押さえたプロジェクトマネジメントができているか、記事を読み進めながら一緒に考えてほしい。

 

まず、これまでの「PMO」とは、どのようなものであっただろうか。 
多くのプロジェクトでは、PMOがPM/PM補佐に近いポジションを取り、計画策定を綿密かつ網羅的に行ったうえで、その計画に沿って進捗・課題・リスクのモニタリングを実行し、軽微なPDCAを繰り返していく、という動き方が一般的であった。いわゆる「中央集権的PMO」である。
この動きがうまく機能してきたのは、環境変化が少なく当初の計画が大きく逸脱する可能性が低いため、たとえば何か修正を迫られたとしても、計画の延長線上で対応すればコントロールできるケースが多かったからではないだろうか。

 

しかし、VUCA時代が進行すると、どうなるだろうか。 
当初計画の延長線上で対応しようにもコントロールが難しく、これまでのような動き方では立ち居かなくなるだろう。
例えば、急速な円安によってコストが膨れ上がってしまう場合は、スコープやアプローチの根本的な見直しが必要となり、当初想定していた計画から大きく舵を切り直さないと案件のストップにも繋がりかねない危機的状況に陥る可能性がある。

 

このような状況で必要なのが「自律分散型PMO」である。
次に、この特徴を「PMO立ち位置(型)の可変性」、「スピリット・アプローチ」の2つの観点で開設する。

 

観点1:PMO立ち位置(型)の可変性
プロジェクトの状況変化へ素早く適切な対応を取るためにPMOは自らの立ち位置を柔軟に変化させつつ、想定し得る変化を迅速に察知することや、最適なタイミングで現場に情報を取りに行き、いち早く状況を把握・分析・対策を講じることが欠かせない。
当社がPMOでご支援を行う際は、PMOの役割を担う各メンバーが有機的かつ柔軟に立ち位置を変化させながら、各チームやステークホルダーなどの関係者と密に連携して必要な情報をプロアクティブに入手・整理し、迅速に課題解決/適切な意思決定に導く。(図1)

 

図1:当社PMOの主な立ち位置(型)

図1:当社PMOの主な立ち位置(型)


 

観点2:スピリット・アプローチ
筆者は現在、国内大手金融企業における決済ビジネスの戦略策定支援に尽力している。コロナ流行の影響により、キャッシュレス・非接触の決済スタイルが好まれるような市場環境になったことで、日本では各社のQRコード決済が成長し、海外では米Amazonなどをはじめとした生体認証決済サービスなどが続々と登場してきている。このような最新テクノロジーを駆使した激しいサービス競争が繰り広げられ、各社がしのぎを削っている。このような環境化では、各種プロジェクトが当初の計画通りに進むことは稀であり、時間とともに形骸化してしまう傾向がある。そのため、市場動向や最新テクノロジーの開発状況、競合の動きにアンテナを張り、必要な軌道修正を繰り返してあらゆる状況に柔軟に適合したプロジェクトマネジメントを行うことが求められる。

 

下記にスピリットとアプローチで整理した、当社が提供するPMOサービスの特徴がある(図2)。このうち、特に重要となる「リーダーシップ」、「柔軟性」、「スピード」、「現場主義」の4つの特徴を取り上げて、順番に説明する。

 

図2:当社PMOサービスの特徴

図2:当社PMOサービスの特徴

 

<リーダーシップ>
PMOがPMやPM補佐の近くでプロジェクトをサポートするだけでなく、自らが状況に応じて主体的に動き、必要な情報を迅速に取りに行ったり、意思決定の原動力となる動きを担ったりする

 

<柔軟性>
VUCA時代においては当初計画(スコープ・アプローチなどの根幹)の変更も多く発生するため、状況によって計画の変更もいとわず、タスクの優先順位を適切にコントロールし、目的達成にむけて強力に推進していく

 

<スピード>
PMOが状況に応じて適時に各チームへ入り込み、生の情報を自ら集めて、意思決定やアクションを適切なタイミングで実行していくことで、VUCA時代の環境変化によるプロジェクト影響を最小化し、最短でのゴール到達を目指す

 

<現場主義>
PMOが必要に応じてより広く・より深く各チームに入りこみ、自らタスク実行・課題解決を行ったり、時にはクライアント社員と同等の立ち振る舞いで伴走したりする

 

これら4つの重要な特徴を兼ね備えたPMOが、プロジェクト全体を有機的に駆け回り、状況変化に臨機応変に対応していくことで、VUCA時代の変化の流れにうまく対処し、プロジェクトの成功確率を上げていくことができると考える。

 

図3:「自律分散型PMO」と「中央集権型PMO」の比較

図3:「自律分散型PMO」と「中央集権型PMO」の比較

 

図4:当社の「現場主義」の動き方のイメージ

図4:当社の「現場主義」の動き方のイメージ

 

2023/03/14