スーパーシティ構想から見える官民連携の論点と今後の方向性

自己紹介と問題提起

「まるごと未来都市を目指すスーパーシティ構想」は、当初5自治体が指定されるとされていたが、公募から1年以上の検討期間を経て、つくば市、大阪市、またデジタル田園都市枠として、吉備中央町、茅野市、加賀市が選出された。

 

筆者は、各組織でいくつかの企画支援をしてきた立場から、スーパーシティの決定の経緯からみる課題と、中長期的な官民連携の在り方について整理し、この領域の発展の一助としたいと考えている。

目次

  • 「スーパーシティ」とは何か
  • 今回の採択の基準
  • 今後民間企業はどう臨むべきか。
  • 弊社のサービス

「スーパーシティ」とは何か

そもそもスーパーシティに法的根拠を与えている、改正国家戦略特区法は令和2年9月1日に施行され、「複数分野の規制改革を同時・一体的に進める手続設定」と「データ連携 基盤整備の事業者に、国や自治体が持つデータの提供請求」を主な追加事項とした。

 

日本は縦割り行政の為に、考えた事業の実現が小粒になる傾向がある。その真因は、規制改革を進める際に「各省との折衝」が最初にあり、ボトムアップ型で検討が進められるためである。これをトップダウン型にし、住民合意に基づいた自治体からの提案について、内閣府(内閣総理大臣)を各省より先に置くことで、事業の実現を大粒にできる。この思想に基づいて作られたのが、改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)である。

 

本来ならば2021年4月の段階で決定するはずであったが、スーパーシティ型国家戦略特別区域の区域指定に関する専門調査会(以下専門調査会)で、「大胆な規制改革の提案が乏しかった」との意見を受け、各自治体が再検討し、2021年10月に企画を再提出。その後採択となった。「大胆な規制緩和」の提案に乏しかった理由として、関係者の間では、「民間企業側からの提案内容に大胆さを欠いており、大胆な規制緩和を必要としないものが多い」といった意見や、「自治体側が構造改革特区を補助金の延長と考えている節があり、なぜ必要であるのかを理解していない」といった声を聞くことがあった。加えて、Covid-19の影響で、法案採択前に想定していた、働き方、教育、医療、各種の行政手続きのオンラインが進展したことも、新規性のある大胆な規制緩和策が提案するのが難しかったことに影響を与えていると考えられる。

今回の採択の基準

今回、判断の基準となったのは「検討の熟度」という尺度であった。それは2つの概念からなり、1)規制改革、2)先端的サービス(事業)の2点を重視しており、それぞれ以下のような観点を盛り込んでいる。

    • 規制改革の提案に関しては、規制所管省庁と既に概ね合意した項目が複数あること、加えて、規制所管省庁と今後の議論が可能な程度に具体化した項目が相当数あること。
    • 事業(先端的サービス)に関しては、おおむね5分野以上について、想定している事業者が参画しているなど、事業スキームが具体化されていること、また、事業者などから規制改革による事業の実現向けた強いコミットがあること。

この基準を用いて、採択を行った結果、先述の自治体が採択されている。

 

しかし、この基準の運用は専門調査会における複数の委員のコメントにて以下のような趣旨として批判を受けていると筆者は理解している。各監督官庁と先に合意をするものであれば、これまでのボトムアップ型の意思決定と大差はない。むしろ省庁と合意できていないものでも、大胆な企画は特区諮問会議に上申し、賛成反対を内閣総理大臣の裁定で決することが、本法案で実現したかったことである。では、なぜ「検討の熟度」が決定の基準になったのかについては、筆者は慮る以外に方法ないが、菅政権の不安定さが一因にあり、政治的な裁定が望みにくい状況で、やむをえずそのように判断したのではないか?などと想定している。

今後民間企業はどう臨むべきか。

不安定な政権運営下では、政治的トップダウンを求められる制度は形骸化しやすく、自治体だけでなく、多くの民間企業が徒労感を味わったと想定している。関係者の努力は押して図るべきものであり、結果ついて批判することは本稿の目的ではない。

 

本論の目的は、政治・制度をビジネスの外部環境とみている民間企業が、これを事業機会と察して、官民連携で行政が抱える問題の解決の乗り出す可能性があるか?を問うことである。現在のスーパーシティに関して言えば回答はNoに近いが、今後はこのような機会に民間企業としてどのような態度で臨むべきか、思案することにする。

 

何をテーマとするべきか

 

地方自治体では、多くの長期ビジョンを作成し、重点課題を定義しているように見える。記載内容は非常に汎用的で何をどうするのかの検討粒度に欠けている。そこで、地域の本質的な政策課題に対しては、官民連携の検討会を立ち上げ、民間事業者にも提案機会を求めておくべきである。しかし自治体側にその検討ための予算を迅速につけられるものではない。

 

よって当面(少なくとも1年程度)は、意識の高い民間企業側が持ち出しで検討することになるだろう。直近ではマイナンバーを中核とした個人IDを活用して、医療健康、災害関係、教育、金融・決済などのテーマの連動性を持ち、サービスを改善することに主眼が置かれるだろう。次のステップとして、さらにこれを産業・雇用の創出、税収の増加といった本流側の課題に結び付けられるか?といった論点で、掘り下げる必要があろう。

 

どのような検討スキームが望ましいか

 

民間企業側は、政権運営の不安定さに依存せず、独自に地域に展開可能な事業案を構築することが求められる。事業の成否には商圏が大きくカギになるため、1自治体を対象にするものではなく、複数の自治体を研究会などに参加してもらい、自治体を顧客の1つと想定する程度として、最先端技術を啓蒙しながら巻き込む方法を考える必要がある。

 

民間側にとっては自治体に事業参画を促すためには、その情報の拡散性から後に引くことができない“重さ”を抱えているため、できれば、このようなスキームを使って民間側で先に一定の成功事例を構築しておきたい。一方で、自治体側は成否が不確実性のある事業モデルは、民間企業先行型に後乗りにする形の方が、圧倒的に参加しやすくなる。

 

誰を巻き込むのか?

民間側は独立したスキームを持ちながら、一方で、自治体側の内部をどう進めるかが問題となる。このような、デジタル化によるサービス改善、自治体の競争力強化など大胆なテーマの連動性というものは、自治体CIOがその責務を担うように描かれている絵をいくつも見かけるが、政策が理解できかつ政策間のシナジーをデザインでき、さらにシステムアーキテクチャーまで作ることができるスーパーパーソンには残念ながらお会いしたことがない。ここは首長の特質を見極め、その関係性を強化して包括連携協定などを結び、リーダーシップを発揮いただくモデルを構想する以外にない。

 

このような体制を構築して、民間で独自に進められるスキームであると同時に、政権の安定化など攻めうる機会が望めるのであれば、一気呵成に官民連携による問題解決を図ることであると筆者は考える。

弊社のサービス

このような知見に基づいて、弊社では官民連携により社会問題の解決を図るためのフレームとして、民間企業のアセットをキーとした、社会問題の解決の提案、案件組成を支援するサービスをスタートさせた。自治体側は問題がわかっているが、成功する方法論や最先端技術の知見を欠く。一方で、民間企業は方法論を所与とした営業活動を展開せざるをえない事情がある。双方のミスマッチを是正し、そこに不足する能力をネットワーキングなどで補いながら、地域社会が抱える問題を解決する役割を果たしていきたい。

 

次回の「Social Design」の寄稿では、社会をどのように築いていくかを問う「ソーシャルデザインとは何か?」をテーマとし、社会で現在起こっている変化、これから起こりうる変化について洞察を深めていこうと思う。

図1: 当社のサービススキーム

図1: 当社のサービススキーム

2022/07/06